本調査は、厚生労働省の要請に基づき、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、オランダ、オーストラリア、韓国の7カ国を対象に、各国の外国人労働者受け入れ制度について文献調査等により情報収集を行ったものである。わが国で、入国管理法の見直しに関する議論が行なわれていることを踏まえ、諸外国における合法的な外国人労働者の受け入れについて、制度の概要や動向、受け入れの現状、課題等をまとめた。
?受け入れ分野や受け入れ人数の決定方法
(受け入れる人材の範囲)
欧米各国における外国人労働者の受け入れは、原則として、一定以上のスキルを有する労働者を主な対象としている。各国の受け入れルートを、便宜上、受け入れる人材の専門性や職務レベルにより高度な専門性等を有する人材?職務、中程度の専門性を有する人材?職務(いわゆる skilled、ここでは専門技術者と呼ぶ)及び非熟練労働者を中心とする低度の人材?職務の3つに大別するなら、このうち各国における受け入れの中心は、中程度の専門技術者と考えられる。しかし、実際には制度上の高度と中程度の境界は設けられていないか、明確ではない場合も多く、また同様に、各国の制度構造上、中心となるルートの下位に位置づけられる、主に季節労働者などの非熟練労働者や短期労働者を受け入れるルートについても、実際には中程度の人材を含む場合がみられる。
なお、アメリカやオーストラリアでは永住権を伴う制度と、期限付きの受け入れ制度が併用されているが、他国では、一定の年限を設けつつ、延長等で所定の滞在期間を経れば、永住権の申請が認められる(ルートによって可否が異なる)といった手法が一般的である。
図表1:主な受け入れルート
高度な人材に限定されたルートを設定している場合、対象者自身の専門性等が重視され、予め雇用主が決まっていることが要件化されない傾向にあるが、中程度~高度の人材の受け入れルートでは、原則として予め雇用が確保されていることを要し、求職を目的とする入国は原則不可とされる場合が大半といえる。ドイツでは例外的に、大卒者、認定職業訓練修了者に対して、求職を目的とする6カ月間の滞在許可が付与される(ドイツ語能力や自ら生計を維持できることなどの要件あり)。
中程度以上のスキルを有する人材として受け入れを認める範囲について、職種の指定により定義しているのは、イギリス、オーストラリア、韓国である。このうちイギリスでは、職業分類の細分類レベルで職務の水準を分析のうえ、受け入れ可能な職種(及び賃金統計を用いた職種ごとの給与水準の下限)を規定している。オーストラリアでは、国家技能委員会が職業レベルと併せて労働市場の状況などを勘案のうえ、労働力不足状況や今後の労働需要予測をまとめた職種リストを定期的に見直し、同リストを根拠の1つとして、移民?市民権?移民サービス?多文化大臣が最終的に「技能移民職業リスト」を改定している。
一方、アメリカ、ドイツ、フランス、オランダでは、同種の職種リストは明示されていないが、対象者の保有資格を学士以上とする要件や、これに相応する職務であるべきこと、また給与水準に関する基準などにより、申請可能な範囲を限定しているとみられる。例えば、アメリカのEB-2(知的労働者)やH-1B(特殊技能職ビザ)では、「学士号より上の学位をもつ専門家、科学、芸術などの分野で特出した能力を有する者」(EB-2)、「科学、薬学、医学?衛生、教育、生物工学、ビジネスなど特殊技能を要する職業(speciality occupation)に学士以上の学位をもって従事する」(H-1B)などの要件により、専門的?技術的分野の指定と専門性の水準(学士以上)を設定している。
このほか、各国では、二国間協定等を通じた労働者の受け入れが実施されている。全体像を把握することは難しいが、例えばフランスでは、55件にものぼるこうした協定により、高度人材や専門人材、不足職種等への受け入れを実施している。また、ドイツでは2016年以降、西バルカン諸国(アルバニア、ボスニア?ヘルツェゴビナ、コソボ、モンテネグロ、北マケドニア、セルビア)出身者を対象に、正式な資格がなくともドイツへの入国を許可する制度を実施している。同制度は、合法的な第三国外国人労働力受け入れルートとして利用されており、約6割が、熟練労働者や専門家として雇用されている。
(労働力不足職種への受け入れ)
上述の通り、オーストラリアでは、労働力不足が生じている職種を中心に受け入れを行うことで、国内労働者への影響の抑制がはかられている。同様に、イギリス、フランスでは、雇用や賃金に関する統計データの分析により、労働力不足が生じている職種を特定し(いわゆる「労働力不足職種リスト」)、受け入れ基準の緩和等の優遇を行っている。また、受け入れを労働力不足分野に限定しているアメリカのEB-3(専門職?熟練?非熟練)も、同種の手法により不足分野を特定していると考えられる。なお、オランダでは、労働力不足に関する分析は実施されているものの、その結果が労働者の受け入れに際して、優遇措置等に利用されているとの情報は得られなかった。このほか、とりわけ労働力不足が顕著な職種への対応として、ドイツでは、介護人材の調達を目的とする域外(第三国)への働きかけが行なわれており、同様にイギリスでも、フィリピンとの間で看護師の受け入れに関する協定が締結されている。
(非熟練労働者の受け入れ)
こうした選択的な受け入れの一方で、各国では非熟練労働者についても、国外からの調達が図られている。欧州では、欧州経済領域(EU加盟国及びノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン)に属する各国の労働者に域内他国での就労の自が認められており、とりわけ中東欧諸国からの労働者が、各国で非熟練労働の重要な担い手となってきたとされるが、とりわけ季節労働者(特に農業分野)については、引き続き域外からも一定数を受け入れている状況にある(注1)。イギリスでは、EU離脱により中東欧諸国の労働者を受け入れることが困難となったため、停止されていた季節労働者の受け入れスキームが試験的に再開されている。
同様に、アメリカでも、国内での確保が困難な分野の職務を遂行できる非熟練労働者や、農業分野?非農業分野における季節労働者の受け入れを実施している。またオーストラリアでは、季節労働や家事労働において非熟練労働者を受け入れている。
一方、韓国では、就労資格による外国人受け入れ数の9割(2020年時点で約41万人)を非熟練労働者が占める。その大部分が、経済の好調を背景とする人手不足への対応策として、2004年に導入された「雇用許可制度」によるもので、労働力不足が生じている分野への非熟練労働者の受け入れが主眼である。主な受け入れ業種は、製造業、農畜産業、建設業などである。
?受け入れ者の選定方法、基準
既に見た通り、各国ではスキルレベルや分野に応じた多様な受け入れルートが設置されており、受け入れの基準もこれに応じて多様である。以下では、中程度から高度の人材に関する主な受け入れルートを中心に概観する。
上述のとおり、各国における高度~中程度の人材の主な受け入れルートでは、原則として予め雇用が確保されていることを要する。受け入れ予定の雇用主は、対象者のビザ申請に先立って受け入れの許可を得るほか、入国後も雇用関係の終了まで、受け入れ先として責任を負うこととなる。関連して、イギリス、オーストラリアでは、外国人の雇用主となるためには事前の認可取得が義務付けられている。なお、オランダについても認証スポンサーの制度があるが、外国人労働者の雇用主全般に要件化されたものではない(ただし、同国の受け入れの中心である「知的労働者」ルートでの受け入れには、登録が必須)。
なお各国では、外国人労働者の受け入れに際して、自国の労働者への影響が考慮される傾向にある。雇用主が、国内で一定期間の募集を行ったが、労働者を確保できなかったことを証明する、いわゆる「労働市場テスト」を申請の際の要件とする手(アメリカ(EB-2 など)、オランダ、オーストラリア、韓国)や、申請を受けた当局が、当該の雇用主による直近の求人状況等を参照する手法(フランス)がみられる。フランスやドイツでは、地域の労働市場における状況が併せて考慮され、例えば雇用状況の悪化等が生じている場合、これを理由に申請が却下されることがありうる。なおドイツでは、専門技術者の受け入れ促進を図る目的で、対象者の公認資格の保有とドイツにおける雇用契約の締結を前提に、受け入れに際して労働市場テストの適用を一部廃止している。同様に、イギリスでもEU離脱に伴う制度再編を機に、労働市場テストが廃止されている。
(学歴や職歴、スキルレベルなど)
受け入れにおける判定基準は、労働者自身に関する保有資格や職務経験、予定されている雇用の職務レベルや給与水準、さらに国によって方法は違うが、労働市場の状況が勘案される。
例えばアメリカのH-1Bでは、上述のとおり、専門的?技術的分野における特殊技能を有する「学士以上」の人材であることが要件とされ、職歴や従事予定の職務内容に関する具体的な要件は設けられていない。雇用主には、賃金?労働条件等に関る誓約を連邦労働省に提出することが義務付けられており、この内容が、国内労働者の不利益とならない水準であるとして承認を受けることを要する。その際の賃金額は、当該の職務レベルに対して「実際に支払われている賃金」か「支配的賃金」(地域における該当職種の賃金水準)のいずれか高い額でなければならない。
ドイツの「専門人材」も、学士レベル以上の教育資格か公認職業訓練資格(相当)の保有が要件とされ、職務は必ずしも限定されていない。給与水準については、同等の専門技能を持つ国内労働者の労働条件と同等であること、とされる。またオランダの「知的労働者」は、「高学歴」であることが要件となり、同様に職務や経験は規定されていない。賃金水準については、年齢層(30歳未満、30歳以上)に応じた規定の額以上であることとされる。
一方、オーストラリアの「一時的技能不足」では、受け入れ可能な職務が労働力不足職種リストや「労働協定」(政府と企業?産業の間の協定)により予め限定された上で、従事予定の職務に必要な技能の保有、2年以上の実務経験が要件とされ、教育資格に関する規定はない。給与水準については、(当該職務の)平均的な給与額が参照される。イギリスの「専門技術者」も、受け入れに際しては従事予定の職務レベル(中等教育修了相当とされるレベル3以上)に主眼が置かれ、教育資格は必須要件とはされていない。給与水準については、規定の下限額以外に、賃金統計(当該職種の実勢給与額の8割)が参照される。
さらに、フランスにおける雇用労働者の受け入れにおいては、保有資格や職務水準等に関する明確な基準は示されていない。雇用当局が労働市場の状況等を勘案のうえ、採用する予定の外国人の職能や経歴、資格が求人の職業に相応しいかどうかを申請毎に判断しているとみられる。
最後に、主として非熟練労働者の受け入れを行う韓国の「雇用許可制」では、教育資格や職務、経験等に関する基準はないものの、業務に応じた技能水準、韓国語能力により選抜が行われる、とされる。
図表2:高度?中低度人材の主な受け入れルートにおける基準設定等の状況
?受け入れ後の語学教育、職業能力開発
アメリカでは移民や季節的農業労働者(滞在資格のある外国籍の者を含む)に対する職業訓練制度として、「全国農業労働者仕事プログラム(National Farmworker Jobs Program, NFJP)が提供されており、連邦政府が州の実施する職業訓練に助成金を拠出して、必要なスキルの育成を支援している。また、英語の能力が十分でない移民、難民らに対する成人語学教育を、法律に基づき、各地の教育機関等で実施している。
イギリスでは、制度として受け入れる外国人労働者は、原則として所定のスキルを取得している者、または自国の労働者が確保できない職種で働く者を対象としており、入国後の能力開発については、基本的に想定していないと考えられる。地方自治体が期間限定の資金を得て、外国人向けに英語コースを提供したケースも見られるが、恒久的な制度ではない。
一方、オーストラリアでは移民と新規入国者に対して定住を支援する「全国定住フレームワーク」(中央?州?地方の各レベルの政府が、言語サービス、雇用、教育?訓練、住宅等に関するサービスを提供)が実施されている。これには、翻訳通訳サービスのほか、英語力向上のためのプログラム、求職者向けには英語と職業訓練を組み合わせたコース、オンライン求人ウェブサイトを通じた求職支援などが含まれる。
ドイツでは、過去に受け入れた非熟練外国人に対する社会統合策を怠った反省から、難民も含む外国人の社会統合策に力を入れているとされる。実施されている「統合講習」(ドイツ語、市民教育等)は、近年の大量の難民の流入を受けて、予算の増額や対象の拡大などが行われている。
フランスでは永住を希望する外国人に対して、「共和国統合契約」に基づくフランス語研修及び市民訓練が実施されており、その習得に関する判断基準の厳格化とともに、就労を通じた統合の促進が目指され、新規入国者の学歴向上、資格取得、専門的職業経験の習得を強化する方針が示されている。
オランダでは、永住希望者に対する「市民化プログラム」が提供され、オランダに関する知識やオランダ語の習得を経て、市民課試験に合格することが求められる。
韓国では、雇用許可制に基づいて入国した外国人労働者に対して、各種の支援策を実施しており、これには在職の外国人労働者を対象とした職業訓練のほか、職場文化や職場倫理、韓国での生活に必要な諸法規等の教育、また苦情相談、生活?法律および仕事関連の情報提供などを含む。
?経済悪化時の外国人失業者への対応
アメリカ、イギリスでは、雇用を前提とするルートによる入国者が失職した場合、滞在資格を失い、期限までに滞在条件を満たす新たな仕事に就けなければ、国外への退去が原則となる。
イギリスではまた、外国人は原則として滞在中に公的補助に頼らないことが入国許可の条件とされ、このため拠出制の給付(求職者手当等)は要件を満たせば受給可能だが、低所得層向けの社会保障給付の受給や、公的住宅、ホームレス向け支援の提供を受けることは原則として不可とされる。
ドイツでは、外国人労働者に対する失業の対応は、ドイツ人労働者に対する失業時の対応と同じとされる。失業手当Ⅰの受給には、65歳未満で、①失業中であること、②雇用エージェンシー(AA)に失業登録し、少なくとも週15時間以上の仕事を探し、すぐにAAの職業紹介に応じられること、③失業手当の権利取得期間(離職前2年間に通算12カ月以上保険料を納付)を満たしていることが条件となっている。このほか、資産調査制の失業手当が適用される可能性がある。
フランスでは、公共職業安定所による支援を受けるためには登録が必要となるが、これには、何らかの居住許可(注2)を取得していなければならない。
韓国の雇用許可制では、勤務先の変更は原則禁止されているが、滞在可能な期間よりも早く雇用関係が終了した場合、1カ月以内に雇用支援センターに申請の上、斡旋を受けて求職活動をすることができる。ただし、申請から3カ月以内に許可が下りない場合は出国しなければならない。
?失踪、不法滞在等に関する対応
アメリカ、イギリスでは、雇用主が労働者の就労資格の有無をオンラインで確認するためのシステムが整備されており、これに反して不法滞在者を雇用した場合には、中止命令や行政罰、あるいは刑事罰の対象となりうる。ただし、アメリカでは同時に、外国人全般に対する雇用差別を禁止する法律を制定するとともに、一定の要件を満たす不法就労の長期滞在者の地位を合法化するといった取り組みも行われたことがある。一方、イギリスでは、公的医療サービスや、銀行口座の作成、住宅の賃貸などのサービス提供者に滞在許可の確認を義務付け、不法滞在者の利用を制限して滞在を困難にすることで、自発的な帰国を促している。
ドイツでは、闇労働税務監督局(FKS)が「不法就労(Illegale Besch?ftigung)」(①外国人の不法就労、②最低労働条件違反、③違法な労働者派遣)を所管し、通報等をもとに企業への立ち入り検査を行い、労働者の身分証、労働契約書、給与明細、就労時間証明書、社会保険関係申請書などを主に確認する。
フランスでは、不法滞在者が年々増加している状況を受けて、合法化の促進や滞在許可の簡素化を含む対策の必要性が議論されている。
?外国人労働者差別等、人権侵害への対応
各国では原則として、外国人労働者に対して、国内労働者と同様の労働法上の権利を保証している。
アメリカでは、外国人労働者全般に対する雇用差別を禁止している。また、啓発活動、疑われる事案への報告を受け付ける連絡窓口の設置など、撲滅に向けた取り組みを強化している。イギリスでも同様に、平等法を通じた差別禁止のほか、現代奴隷法により奴隷労働や人身取引の取り締まりをはかっている。
ドイツでは、2020年に複数の食肉処理工場で新型コロナウイルスのクラスターが発生し、そこで働く外国人労働者に対する搾取的な労働条件や生活環境が明らかとなったことを受けて、食肉産業における外国人労働者の環境改善に向けた法改正がわれるなど、法制度を通じた対応が行われている。
オランダでは、社会雇用省部局である検査官が、雇用主による法令遵守を監督し、外国人雇用法だけではなく、労働条件、労働市場、労使関係、社会保障制度に関連するすべての法律に即しているかどうかを監督している。
オーストラリアでは、外国人労働者を含む全ての労働者に「2009年公正労働法(FairWork Act 2009)」やその他の関連法規に定められた、基本的な就労権等の権利が保障されている。また、一連の差別禁止法(注3)が、人種、宗教、性別、妊娠、性的指向、身体障害、または労働組合への所属を理由とする職場での差別から労働者を保護しており、不当な扱いを受けた場合には、「オーストラリア人権委員会(Australian Human Rights Commission)」へ申し立てを行って調停を受けることができる。